弦丈は言葉をうまく話せない。
ダウン症という遺伝疾患が原因の発達障害の度合いは様々だが、弦丈の場合はまず発音がうまくできない。
だが理解力や記憶力はそれなりに備わっており、ポケモンや仮面ライダーの名前などはいくらでも覚えられるようだ。
またソフビや合体ロボなどで、延々と一人でぶつぶつ呟きながら遊んでいられるところを見ると、彼の中では物語を創作しているのだろうと思う。
そんなダウン症の子供を持つ親として、彼がどんなことを考え、何を見ているのかずっと気になっていた。
ある日、一緒に出かけた時に私がiPhoneで撮った写真を見て、「しゃしん、しゃしん」と喜び、それからしばらく何度もその写真を見せてくれと言われたことがあった。
弦丈に写真を撮らせたら、彼が見ているものがわかるんじゃないかと思いつき、カメラを与えてみることにした。
親の趣味で神社巡りなどに連れ出すのだが、彼はその場所のご利益などわからず、ひたすら自分の目に映る「面白いもの」を見つけ出している。
最近のカメラの性能は素晴らしく、基本的にシャッターを押すだけで誰でも綺麗な写真を撮ることができる。
なのだが、たまに驚くような写真を撮ることがある。
面白い題材、構図などに加え、何が撮りたかったのかわからないような写真も多い。
そんな時にそれらの写真を見ながら、「これは何を撮りたかったの?」とか「この写真に何が写っているの?」と聞くと、「コイキング」だの「リュウグウノツカイ」だの「仮面ライダー鎧武」などという答えが出てきたりする。
川の風景を見て、ここはポケモンでコイキングが出てきたところに似ている、とか、海だからリュウグウノツカイがいるんじゃないかと思った、とか仮面ライダー鎧武のロケ地に似ているとか、恐らくそういうことが言いたいのではないかと推測できる。
しかし、そのやりとりはお互いにとても楽しく、彼がいつもカメラを持って歩くモチベーションになっているのではないかと思っている。
なのでこのギャラリーサイトは、写真の良し悪しとか撮影技術などとは無縁であり、ましてや写真家としてデビューさせようなんてものでもない。
写真は全てオートで撮ったもので、本人は技術的なことなど何も理解していない。
ただ、同じような発達障害の児童を持つ親御さんに、お子さんにカメラを持すと面白いですよ、これもコミュニケーションの道具ですよ、という新たな遊びを提案してみたいと考え、開設にいたりました。
もちろん、親バカ的に「結構よく取れてると思いません?」という思いも込めて。
弦丈の父